現在公開中、ガルパンの映画、『ガールズ&パンツァー 劇場版』にカメラが登場していたとのことで特定して欲しいと質問を頂きました。ありがとうございます。
まだDVDやブルーレイは出ていなかったのですが、
特番で劇場版の一部を公開していたり、
YouTubeでバンビジュが一部を正式公開していたりして
カメラが使われている場面を数カット見ることができました。
Bandai Visual の公式動画
1:00辺り
かなり古いタイプの蛇腹カメラ(=スプリングカメラ)ですね。
カメラを持っているのは、知波単学園の寺本さんだそうです。
それがこちら。
で、小さくてわかりにくいので拡大しました。
こんな感じです。
特定の前に、少しおさらいを。
彼女たちが乗っている戦車は
九七式中戦車、九五式軽戦車だそうで、
ともに1930年代中期に開発、採用された
大日本帝国陸軍の戦車ということです。
では、考察を続けましょう。
このスタイルのカメラは実はたくさん出ているので、
特定は結構困難ですが、描かれているカメラにはいくつかの特徴があります。
・レンズの奥に見えるカメラ本体に厚みがあり、角張っている
これはフィルムカメラではないと考えられます。というのも、フィルムのカメラはロールといって、軸に巻き付けられているので、フィルムを使用するカメラであれば角張らず、丸くなっているはずだからです。ピコレットやパーレットなどのベスト判フィルムを使用するカメラだと、こんな感じになっています。写真はピコレットです。
・カメラが比較的小型である
コンデジやスマホと比べてはいけません。この時代のものはもっと大きかったのですが、戦車に乗りながら撮影するという機動性を考えると、比較的小型のカメラを使用している可能性が高いといえます。
・レリーズを使って撮影している
レンズ左上に見える白い突起部分に線をつないで、親指で押してますね。これがレリーズです。カメラ本体にもシャッターノブは搭載されていますが、レンズのすぐ側にあるので、指でノブを直接触るとカメラ本体が動いてブレやすくなってしまいます。そのため、直接カメラのレンズ部分を触らずにレリーズを使って撮影しているわけです。ロールフィルムのカメラでも同じようなものがありますが、なくても撮影できるようになっています。
以上のことから、まずこのカメラは35mmやブローニー、ベスト判などのロールフィルムではなく、ガラス板に写真乳剤を塗布したガラス乾板を利用したカメラだと考えられます。ガラス乾板にも実は色々と種類があって、主なものだと大名刺判(6.5×9cm)、手札判(8×10.5cm)、アトム判(4.5×6cm)などがあります。
乾板は12枚入りのマガジンに入れて撮影することが多かったため、カメラ本体に厚みが出やすく、形も四角いので角張ったデザインになるのです。
ガラス乾板はロールフィルムと異なり、大きくて割れやすく、枚数がかさむと重いという欠点がありました。そのため、1935年前後辺りにロールフィルムに取って代わられてしまいます。
しかし、劇中では1930年代の戦車を使用していることから、時代を合わせてガラス乾板のカメラを使用していても特に違和感は感じません。
ということで、まずはこのカメラは「乾板カメラ」である可能性が高いことが分かりました。
では次の考察に行きます。
・上から覗くファインダーがある
一般的に、カメラは彼女が構えているようにしますが、二眼レフやスプリングカメラなどではカメラの上からのぞき込んで、ガラスの反射によって被写体を捉えるスタイルもあります。この丸い部分は、そのためのファインダーなんですね。
・スポーツファインダーがある
寺本さんが四角い穴を除いて被写体を捉えています。でもって、目元に近い所に枠が、そしてレンズの横に更に大きな枠が見えます。この枠は太いワイヤーでつくられたファインダーで、写真の構図をこの枠内を参考にして決めるためのものです。上からのぞき込むと、動いている被写体を捉えるのは難しくなってしまうため、こういった速写に対応できるファインダーが搭載されているんですね。
・レンズしたの両脇に丸いノブらしきパーツがある
私は乾板カメラは所有していないので分からない部分もありますが、蛇腹の繰り出し位置を決めるものではないかと思います。このノブのようなパーツがあるカメラを探せばよいことになりますね。
これまでの考察をまとめます。
・乾板カメラである可能性が高い
・戦車との整合性を考えると1940年以前につくられたカメラである可能性が高い
・レリーズ、上から覗くファインダー、スポーツファインダーを搭載している
・レンズ下の両脇に丸いノブらしきパーツがある
ここから、条件に見合うカメラを絞り込むと、いくつかのカメラが浮上してきます。
最有力候補はこちらです。
ドイツのカメラメーカー、フォクトレンダーの「ツーリスト」。
Voigtländer Bergheil(ベルクハイル)と書きます。写真はカメラペディアより。製造の歴史は古く、1911年〜第2次世界大戦までつくられていました。
写真のカメラはフォクトレンダー・ツーリスト・デラックスで、乾板の大きさは6.5×9cmの大名刺判、1923〜31年頃の製品です。
次に、ドイツのカメラメーカー、ヴェルクシュテッテン(Kamera Werkstaiten, KW)の「パテント・エツイ」(KW Patent Etui
)。こうしたハンドカメラは1910(明治43)年頃に最初のブームが起こり、第1次大戦後に混乱期を抜けた後、再び脚光を浴びるようになりました。その口火を切ったのがこのカメラです。
このエツイも複数の機種がありますが、レンズ下の両脇に見えるノブが片方(こちらから見て左側)しか見当たらないので、違うかもしれません。
次に、日本のメーカーで近いものがありました。
小西六(現在のコニカミノルタの前身)のリリーです
(Konishiroku, Lily 1930)。このリリーも何種類か製造されていますが、一番近いのは1930〜36年辺りに製造された6.5×9cmの大名刺判。デザインはほぼ同じです。
このリリーに搭載されていたシャッターとレンズは当時としては最高級のカール・ツァイスF4.5とフリードリッヒ・デッケルのコンパーシャッターです。1936年に新型が発売されるまで比較的よく使われていたモデルです(とはいっても、当時としてはかなりの額だったので一般人は気軽にカメラは買えませんでした)。
他にもツァイス・イコンのマキシマーやコダックのコレマーなどもありますが、代表的なものはフォクトレンダー・ツーリスト・デラックスか小西六のリリーといえるでしょう。
でもって、どっちのカメラを使っていたんだよ、という話になりますがこれがなかなか難しい。ほぼ同じようなデザインでしょう?
その理由は、小西六のリリーは、実はフォクトレンダーの「ツーリスト」をもとに設計されているからです。悪く言ってしまうと、ドイツのフォクトレンダー・ツーリストをパクッて国内で設計販売したのが小西六のリリーだったわけです。
昔はこういうことは日常茶飯事で行われていて、実際ニコンもキヤノンもドイツのカメラをパクッて安く販売し、売り上げに繋げていたという歴史があるんです。
ですので、どちから一方に決めるのではなくて、製造時期もほぼ同じ、乾板の大きさも同じであることから、結論としてはフォクトレンダー・ツーリストもしくは小西六のリリーのどちらか、と含みを残しておいた方がよいように思います。個人的にはオリジナルのツーリストを押したいですが (笑)。
それから、小西六のリリーだと特定した方が「ファインダーが決め手」と仰っているようですが、それは違います。こうしたスポーツファインダーは、当時のハンドカメラに搭載されているものが多かったからです。あくまでも特定するための一要素に過ぎません。描かれたカメラの複数の要素を比較検証して、初めて特定が可能となるわけですから。
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コメント
テレビ版最終回エンディングで出ていたカメラも
取り上げてくれませんか。
小西六リリーにこんなオチがあったとは…
何かこれをお持ちな方もいらっしゃるみたいでTYwitterでは小西六リリー説優勢だったのです。
そうか…
うちが感じていた違和感はこれだったのか…
とりま、こちらの説明を紹介させて戴きましょう。
手前の板の一番手前、白い部分が左右共にあることから、どちらかといえばドイツ製のものがモデルになっていると考えるのが妥当かも知れませんね
ハンドカメラの情報を漁っていて偶々流れ着いた者です。こちらでも名の上がったマキシマーと他1台のハンドカメラを所有し、実際に撮影して遊んでおります。が、ハンドカメラに詳しいのかと言うとそんなこともないですw
ただ、実際にこの種のカメラを少し使ったことのある者として少々ツッコミを。
リリーではないのではという考察については同意ですが、硝子乾板使用カメラと判断する根拠として挙げた「本体が角張っている」「ワイヤーレリーズを使っている」という判断理由はいかがなものかと。
ロールフィルムを使用するカメラのほとんどが角が丸いのは事実ですが、ロールフィルムを使用するから必然的に丸くなると言うものではないと思います。代表的な例だと二眼レフですが、左右からホールドするタイプのカメラでも角張ったデザインのものは少ないですがあります。これはホールド性を考慮したデザインであってロールフィルム使用機の根拠にはならないと思います。
ワイヤーレリーズについては、この絵のような使い方は間違っている/こうしないとブレるという認識が間違っているとしか。
三脚に載せて使うのならワイヤーレリーズ使用でいいのですが、手持ちでワイヤーレリーズなど繋げたら、片手でカメラ本体を支えなければならなくなり、かえってブレブレになります。というかカメラ落っことして壊しそうで、怖くてこんな構え方してみようという発想すら出てこないレベルですw
持ち方を詳しく言葉で説明するのが難しいので省略しますが、片手でカメラ後方を、もう片方の手でカメラの底板(畳んだときに蓋になる部分)を持ちながらレリーズレバーに指を掛ける、というような構えになります。ホールド性は劣悪なのですが、ブレに関しては意外とブレにくいです。本体側にレリーズボタンの付いたスーパーイコンタの方が持ちやすいにもかかわらず、こちらの方がブレ易いくらいです。
他にも蛇腹カメラ=スプリングカメラって訳じゃないとか乾板ホルダーひとつにつき硝子乾板一枚では?とか(乾板ホルダーも持ってはいますが硝子乾板の入手やら何やら私にはハードルが高すぎるのでロールフィルムホルダーを使っております)色々ツッコミどころはありますが。
レンズボード左上に煙突のように突き出したパーツ、これはアオリ撮影用(ライズ/フォール)用の操作ノブです。これがあるということは、レンズを通ってきた像を何らかの方法で実際に見て確認しなければならないということで、一眼レフかピントグラスで像を確認するタイプのカメラ、ということになります。こちらを判断基準にすべきでは、と思います。
なんにせよ細かい部分が省略され過ぎていて機種特定は無理そうですね…。シャッタースピード設定用のダイヤルが見当たらない(=リムセット)事と他若干の理由から、1928年以降の機種の可能性が高いかな、と。ツーリストではという判断は無難だと思います。