先日、新聞(←こちらだと冒頭部分のみ無料)を読んでいて記事の内容に違和感を感じたので
エントリーを書きました。
(追記)
現在ではこの記事は削除されているので、冒頭部分のみ引用しておきます。
(カレーライスをたどって:4)白虎隊もおじけづいた(2013年8月21日:朝日新聞)
会津藩の山川健次郎はその聡明(そうめい)さから、NHK大河ドラマ「八重の桜」の中でも「会津の宝」と評された。後に東京帝大、九州帝大、京都帝大の総長を務める。記録が残っている中で最初にカレーライスを食べた日本人と言われることが多い。戦に敗れた山川は1871(明治4)年、開拓使の留学生に選ばれてアメリカに向かう。まだ16歳。その船上でのこと。日々供される料理のにおいが嫌で、何も食べないでいた。
船医から食事をとるように言われ、「ライスカレー」を注文する。しかし、ご飯にかける「ゴテゴテしたものは食う気になれない」。アンズの砂糖漬けをおかずにしてご飯を食べ、飢えをしのいだという。(続きは会員のみ閲覧可能)
とある新聞で、日本のカレーライスの歴史をたどるという連載記事があり、
その4回目に元白虎隊の山川健次郎について書かれた記事を読んでいたときのこと。
その文章を一部、抜粋します。
会津藩の山川健次郎は…(中略)…記録が残っている中で最初にカレーライスを食べた日本人と言われることが多い。
戦に敗れた山川は1871(明治4)年、開拓使の留学生に選ばれてアメリカに向かう。まだ16歳。その船上でのこと。日々供される料理のにおいが嫌で、何も食べないでいた。
船医から食事をとるように言われ、「ライスカレー」を注文する。しかし、ご飯にかける「ゴテゴテしたものは食う気になれない」。アンズの砂糖漬けをおかずにしてご飯を食べ、飢えをしのいだという。
カレー、食べてないじゃん……。
ハウス食品のホームページには
日本人、カレーライスに出会う。
日本最初の物理学者となる山川健次郎が米国留学への船上でライスカレーに出会いました(ただし「食う気になれず」との記録があります)。
ヱスビーのホームページには
毎日新聞の記事を引用して、
「会津藩白虎隊の一員であった山川健次郎が明治四4年に渡米した際の船中食で、カレーライスなるものにはじめて接し、『このゴテゴテした物』と称してライスにかかったカレーを食べることができず、ライスだけを食べ、この船中食には閉口したそうだ。山川健次郎がカレーライスに接したはじめての日本人ではないだろうか」(1981年6月21日付「毎日新聞」)という記事があります。
さらに
天正の少年使節は、インドで日本人が奴隷として働かされせられている姿を目撃しています。江戸時代の初期、アジア各国の日本人町に多くの日本人が住んでいました。こうしてアジアに進出していった日本人が、どこかでカレー料理に出会っていたとしても不思議ではありませんね。
とあり、新聞記事よりも掘り下げた書き方をしています (笑)。
又聞きの資料をいくら集めてもしょうがないので、
原本に当たってみることにしました。
花見朔巳という人が、昭和14(1939)年に『男爵山川先生伝』という本を
出しています。現在では著作権切れなので、
国会図書館のデジタル化資料で読めます。
読み方とダウンロードの方法はこちらを参照してください↓
話題の「エロエロ草紙」を、国会図書館から無料でダウンロードする方法
著作権が切れてるので、該当ページを掲載しておきます。
それによると、
……なに分にも洋食などは生まれて初めてで、その異様な臭気にたちまち閉口して、しばらくの間何も食わずに頑張っておられた。しかし如何せん長い航海中のことであるから、医者はしきりに摂食を促し、自身もまた空腹に耐えかねて、遂にライスカレーに手をつけたのであるが、何分ゴテゴテしたカレーはどうしても食う気になれず、仕方がないのでライスだけを食って、副食物には、医者の好意で探してくれた杏の砂糖漬けを添えて、しばらく飢えをしのがれたということである(『男爵山川先生伝』、p.67/旧字や送り仮名は読みやすいように変えてあります)
やっぱりカレー、食べてないじゃん……。
新聞記事を書いた人も、杏の砂糖漬けについて書いているので、
この本を参考にしたんでしょう。
しかし、この『男爵山川先生伝』の記述から記事を書く場合には、
ハウス食品のホームページのように
「カレーライスと初めて出会った日本人」という書き方にしないと
「最初にカレーライスを食べた」
「実際には食べてない」と矛盾してますから。
尤も、現在文献で確認できるもののうち、一番古いという意味ですけどね。
ヱスビーのホームページみたいに、奴隷で売られた日本人などもたくさんいたので、
カレーに出会っている可能性は高いのでしょうが、文献に残っていないので
確認できません。
奴隷で売られた日本人については、
1597年、日本人が奴隷としてメキシコに渡っていた資料が発見されたことが
最近新聞記事になったりして話題になっていたので、
ご存じの方も多いかもしれませんね。
それから、あと2つほど違和感を感じたことがありました。
それは、
・見出しがヘン
「白虎隊もおじけづいた」と書かれていました。
文章を読んだ後にもう一度見出しを見返すと、
「白虎隊(の一員であった山川健次郎)ですら
おじけづいてしまい(カレーライスを食べられなかった)」
という意味であることがわかります。
でも、見出しだけ読んだら何のことだかさっぱりわかんない。
新聞記事の見出しって、記事の内容が一目でわかる内容を
少ない文字数でキャッチーに記すもののはずですが……。
・構成がヘン
途中で突然「カレーとは関係ないが」という文章が差し込まれてます。
そして、「気骨のある人物」というつながりで、カレーの本を書いて
ベストセラーとなった村井弦斎について書かれています。
つまり、
(1)山川健次郎がカレーと出会った話
(2)カレーとは関係ない山川健次郎の気骨の話
(3)気骨つながりで、カレーの本がベストセラーになった村井弦斎の話
という構成です。
どうやら、この2人の人物を「気骨」というキーワードで
つなげたいがためにカレーとは関係ない文章を差し込んでいたんですね。
すごく読みづらいので、構成を変えてほしかったというのが
正直な感想です。
執筆者は下請けライターかと思いきや、
かつて京都総局総局長を務めた人物だそうです……。
わかりにくいものをわかりやすく書くとか、
お金がかかる取材で新たな発見を行うといったことが
新聞にできて、一般人のブログにできない強みのはずだったんですけどね。
これから先、新聞のクオリティはどうなってしまうんでしょう。
というか、もはや足下から崩れている……?
コメント
文章力とか記事のいろはは分かりませんが、『最初にカレーライスを食べた日本人と“言われることが多い。”』なので、食べた日本人と明言している訳ではないのですから完全に矛盾しているとも言い切れないのではないですか?
ミオさん
書き込みありがとうございます!
そうなんですよ、あの記事では実は明言を避けてます。
ただ、そうなると食べたかどうか怪しいのになぜ
この人を出してきたの? となりますし、
非常に紛らわしいです。
新聞社は個人のブログなどでは難しい、関係者への
直接取材や、組織力を生かした取材ができるのが
強みだと思ってます。そのため、こういった記事を書く場合は
関係者や識者に当たって何らかの裏取りや新証言などで
新しい事実を書いていくのが新聞記事のあり方かと
(実際、この連載記事ではいろいろなところに取材をかけてます)。
しかし、最近ではかなりひどい記事の目にするので、
そういった点を指摘したエントリーも書いてます。
一応権威のある(?)新聞社の記事なんだから、
もう少しやりようがあったんではないの? というのが
正直な感想です。