アニメと特撮に出てきたカメラを200機種特定して、わかったこと(2)

アニメ・特撮に出てきたカメラたち
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前回は、「アニメと特撮に出てきたカメラを200機種特定して、わかったこと」として

アニメ制作がデジタルへ移行してカメラの細かい描写が可能になったこと、
本編(ストーリー)や設定にカメラという小道具を絡めやすくなり、
「写真が趣味」というキャラクターを登場させることが
容易になったことで、本編(ストーリー)にも写真を撮るシーン、
写真を通じて物語を展開していくことができるようになったことを述べました。

そしてそこには、アニメ制作だけでなく、テクノロジーの進化などにより
日常生活とカメラとの関わりが大きく変化してきたことがあったことも
解説しました。

今回は、そこから先、アニメでカメラのリアルな表現が可能となり、
キャラクター、ストーリーにカメラが絡むようになったことで、
アニメとカメラの関わりはどうなるのか、を考察しようと思います。

描かれる細部も非常に重要

『けいおん!』『B型H系』『Darker Thank Black』『フォトカノ』など、
21世紀に入ったアニメでは設定やストーリーにカメラが深く関わるようになった
作品が増えてきました。とはいえ、以前より増えてきたという意味で、
まだまだ小道具のひとつとして扱われているに過ぎない作品が多い、というのも事実。
例えば『フォトカノ』では、カメラが頻繁に出てきますが、
最優先は女性キャラクターで、カメラはどーでもいい立場に追い込まれています。

作品にカメラが深く関わってるのにこの描写はやばいよー
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こういう風に書くと、「カメラ好きのメカマニア向けじゃない、美少女を愛でるためのアニメだから関係ないだろ」という反論をよくいただきますが、さにあらず。

『けいおん!!』では、澪がフィルムを入れ替えるところの描写もしっかりと描かれていますし、カメラを中心に話が進むわけではない作品でもカメラの描写が優れているものも多く存在します。

『キディ・ガーランド』(2009-10年)
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『輪るピングドラム』(2011年)
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『アクエリオンEVOL』(2012年)
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また、リアルな描写をしてある作品だけが優れているのか? という疑問も当然出てくると思います。ただ、リアルな画風ではない『日常』でも、

カメラは現物に忠実に描かれていました。こんな感じです。
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実は、作品のイメージを作り上げる上で細部は非常に重要な働きをしています。
美少女アニメの場合でも、キャラクターだけでなく、彼女たちの服装や小道具、
背景、学校、BGMといった形で、見ている側は総合的に判断しているわけです。

音楽に例えると、「細部は切り捨てたり取り付け直すのが自由」と主張したのが
アドルノでした。彼はジャズの音楽を、細部は重要ではなくていくらでも取り替えが自由にきくパーツのようなものと批判し、芸術音楽は細部を入れ替えることは不可能と論じました。しかし、その後研究が進み、必ずしもアドルノの主張が正しいとはいえないことがわかってきました。不特定多数の受け手は、まったく同じように作品を受け取るわけではない、ということです。

例として、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』の
オープニング・テーマ、ペニシリンが歌う「ロマンス」を聴いてみましょう。
http://youtu.be/zAkSkwyCT7A

「愛に気づいて〜」シンセのサウンドに注目してください。
このサウンドは、全体からしてみればごく一部分ですが、非常に重要な役割を負っています。映像とのシンクロで考えると、マサルさんたちが走っている「ワチャワチャ感」がこのシンセとうまくマッチして、いい味わいを醸し出しています。
もしこのシンセ音がなかったら、この主題歌はかなり間が抜けた感じになってしまうでしょう。
ここまで、アニメにおけるカメラの描かれ方を見てきましたが、
どんどんリアルな方向へ流れており、日常生活にも密着してきていること、
そしてカメラは小道具程度にしか認識されていない場合も多いですが、
アニメ作品の中でもこうした「細部」は枝葉末節ではなく、
重要であるということもおわかりいただけたかと思います。

アニメ制作は予算と時間がない。ではどうしろと?

しかし、アニメ制作の現場は予算と時間との戦いで、
リアルになったからよいなどと悠長なことはいってられないのもまた事実。
スタッフからしてみれば、リアルにすればいいっていうけど、
そんなことしたらカメラだけじゃなくて他の小道具もリアルにしなきゃ
いけないじゃんか。時間がかかってしょーがないよ、
という声が聞こえてきそうです。

ディズニー映画みたいにお金を潤沢にかけられるわけではないのが
日本のアニメの現状です。
ディズニーは、1942(昭和17)年の『バンビ』で
ここまでなめらかな動きのアニメを完成させていました。


1941(昭和16)年の『ダンボ』は、制作費81万ドルをかけた大作です。

何でもかんでもリアルにすればいいわけじゃあない(←スピードワゴン風に)、
何を重要として何が重要でないかを見極めて
作品を制作していくこと、
つまり「編集力」がこれからのアニメ作品において
非常に重要になってくると思います。

編集というと映像の切り貼り、つなげ方というイメージがあるかもしれませんが、
物語の世界観やキャラクターのデザイン、ストーリーを描く上で
優先順位というか、何をどのように描いていくかを決めていくことです。

カメラがリアルに描けるようになり、選択肢が増えた分、
何をどう描くのかをしっかりと決めていくことが大切。
細部は重要ですが、すべてを描くのは不可能。
となると、重要なところをいかに描くか、という「編集力」は
時間と予算がない中で日本のアニメができる非常に有効な手段と
なり得ると思います。

編集作業は大変ですが、一度決まればその基準に沿って進めていけます。
その良い例として、アニメ版『ジョジョの奇妙な冒険』を挙げてみます。
2013年6月15日公開(現在では削除されています)

ビジュアルディレクターであるソエジマヤスフミさんを招いたトークで
明らかになったのは、ジョジョの1部に登場したジョースター邸を
3Dモデルで再現して、それをもとにキャラクターがどこから
出入りするかを決めていったということ。

(15:44あたりから)

 ……ジョースター邸があるんですけど、これがどういう構造になっているのかというのを2日、3日かけて原作読み込んで構造を洗い出しまして、実際建物を3Dで造って原作のこの話でキャラクターがここから出入りするとか、ということも含めて洗い出したりとかしたんですね。そうすると、音楽を楽しむ場所があったりだとか、礼拝堂があったりとか、実は原作なんかでチラッとしか見えてないんですけど、いろいろと見えてくることがあって、先生がどれくらいこだわってやられていたかっていうのが逆に教えられたところもあったんです……。
 ……その辺を洗い出さないでやってしまうと、その場限りの絵作りになってしまいがちなのかなぁと。……その辺があると、アニメーションで演出される方も、こんな雰囲気でっていうファジーな場面でやるよりもこの空間にこういう部屋があって、これくらいの高さで、こういう材質で造られてどうこう……のがあった方が「じゃあこういう芝居を入れよう」とか「ここにカメラを据えよう」という映画的な作りができてくる。

舞台道具の作り方やコンセプトについてのお話ですが、こういったところにも
「何をどう描くか」という「編集力」が働いています。
この編集力には、論理性や作品の設定年代、といった作品内だけでなく、
どの消費者に向けられているかといったマーケティング的な側面も
入ってきますので、ひとくちに「編集」といっても実際やる作業は
多岐にわたります。

こうした膨大な作業のうち、何を優先していくかを決めるのも編集力の一種。
この編集力が遺憾なく発揮できるかどうかで、作品の価値は大きく変わっていくと思います。
これが、アニメに出てきたカメラの特定を積み重ねることで私が得た結論です。

アニメに登場するカメラはリアルになってきていますが、
そうではない作品があってもよいと思います。

ただし、手抜きではなくて作品の世界観とマッチしていれば、の話ですが。
個人的には、より設定やストーリーにカメラが深く食い込んでいくような
作品が出てくることを期待しています。

「たかがカメラ」と思われるかもしれませんが
「されどカメラ」。

アニメーションの表現を豊かにするツールの1つとして、
これからも気長にカメラを見つめていこうかと思っています。

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