『イクシオン サーガ DT』第24話「K1(Knighthood)」より。
人造人間の強化兵士ウルベリオンが、紺(こん)たちの前に立ちはだかる。
そして、強化兵士の解説時に、こんなイラストが登場しました。
どこかで見たような……と思ったら、
レオナルド・ダ・ヴィンチの有名なドローイング
「ウィトルウィウス的人体図」ですね(写真はウィキペディアより)。
1487年頃に描かれたもので、ウィトルウィウスとはローマ時代の建築家です。
ヨーロッパ初期の建築家として知られており、『建築について』という本を残し、
ルネサンス期をはじめとして大きな影響を与えた人です。
ダ・ヴィンチ以外にもこうした人体図を描いたものは多数存在しています。
例えば、こちらはチェザリアーノが1521年に描いたものです。
何か、手がでかい気がする……。
他にも、1511年にはフラン・ジョコンド版のウィトルウィウス的人物像、1525年にはフランチェスコ・ジョルジが『宇宙調和論』の中でこの像を描いています。
こちらはアグリッパの書物より。
他の絵と比べて、ダ・ヴィンチのものはどこかひと味違うな、という印象を持つかもしれません。それは、この像は明確な人体比例によって描かれているからです。
井田隆氏のサイトで、詳しく調べているものが掲載されています。
それによると、この円の半径と正方形の辺の長さの比は、
「黄金比」で描かれています。
井田隆氏のサイトでは、かなり詳しく分析されていますね。
ほかにも、BNNから出ている「Balance in Design」でも、同様の分析(こちらはもっと簡単に)行われていますね。この本、ここ数年は絶版で手に入らなかったんですが、増補版が出ました。興味がある方はご一読を。黄金比をデザイン二度のように取り入れるか、デザイナー視点で書かれていてわかりやすいのでオススメ。
Balance in Design[増補改訂版]- 美しくみせるデザインの原則
井田隆氏の分析は2012年6月にアップされていますが、実はそれに先立つこと22年前、すでに詳しく研究して、成果を残している研究者がいました。
向川惣一氏は、1991年2月に発行された「美術史」の「レオナルドの『人体権衡図』研究-その「円」と「正方形」について-」の中で、この円と正方形はレオナルドが「身体各部の比例の基準線を引くのに使ったもの」として、重要な意味があることを明らかにしています。
最近のものであれば、PDFでGiNiiなどからダウンロードして
読むこともできるんですが、20年以上前の論文なので、
ネットでは入手できず。国会図書館に行ってコピーしてきました。
この写真が証拠です。
井田隆氏は、どうやら向川惣一氏の論文は読んでおらず、独
自の解釈で分析している模様。そのため、本当にレオナルドが
黄金比を取り入れていたのか、偶然同じだけだったんじゃないの?
という疑問が残ります。
黄金比はバランスが取れていて美しい比率ですが、
古代エジプトで既に取り入れられていた、という研究もあるほど。
しかし、そんな黄金比万歳を唱える人たちに警鐘を鳴らす研究者もいます。
それが、マリオ・リヴィオが書いた『黄金比はすべてを美しくするか?』です。
これはエジプトなどの古代文明から、黄金比についてさまざまな角度から深く掘り下げています。こちらも面白かったです。
黄金比はすべてを美しくするか?―最も謎めいた「比率」をめぐる数学物語
文庫本も出てます。
エジプトの貨幣などは黄金比で分析できるものの、
偶然そうなったに過ぎないと著者はいいます。
というのも、エジプトの書物では、黄金比をデザインに用いた、ということは
記録として一切残っていないからです。
では、レオナルドの場合はどうでしょうか。
実は、レオナルドが生きていた頃は黄金比はよく知られるようになっていて、
数学者のルカ・パチョーリの著書の中で、幾何学的立体図形に関するイラストを描いていることが記録として残っています。
でも、これだけではまだこの「ウィトルウィウス的人体図」の作画に用いられたかどうか、決定打にはなりません。
しかし、向川惣一氏の論文では決定打となる資料が記載されていました。
それが、「ホイヘンス稿本」です。
……何だよそれ。
簡単にいうと、ホイヘンス稿本はレオナルド一派の一画家によって作られた絵画論で、16世紀半ばに「ウルビノ稿本」とともに成立したとされています(裾分一弘 1977『レオナルド・ダ・ヴィンチの「絵画論」攷』より)。
このホイヘンス稿本には、人体の運動の論理、平行投影、比例論、遠近法などから成り立っており、そのうち、「比例論」ではデッサンと説明的な記述が、レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿を写し取ったものであることがわかっています。ただし、左右が反転していたりと、まったく同じというわけではないそうです。
ややこしいのは、ホイヘンス稿本はレオナルド本人が書いたわけではなく、レオナルド一派の画家が描いたもので、レオナルドの手稿のコピーが多く混じっていること、そして、残念なことにレオナルドの手稿のオリジナルはその大半が散逸し、失われてしまったのでホイヘンス稿本からしか手がかりがつかめない、という点です。
なんか、写本だけ残っていてオリジナルが紛失しているお経とか、絵巻物語に似てますね。
そうしたホイヘンス稿本の中に、人体の形をコンパスを使って描くことができる絵がいくつか残っており、これがレオナルドが「ウィトルウィウス的人体図」の作画に幾何学的な手法を取り入れていた決定的な証拠になっています。
唯一、こうした研究で難があると言えば、ホイヘンス稿本の大きな手がかりとなる主な研究書が、パノフスキーらが残した数少ない論文しかない、ということでしょうか。
パノフスキーの論文は1940年代末とか、50年代に書かれており、日本でも1971年にその一部が翻訳本『視覚芸術の意味』(岩崎美術社)として出版されています。
しかし、肝心のホイヘンス稿本に関する研究論文は翻訳されていない上、絶版でかなりのプレミアがついています。現在、アマゾンで3万円くらい。
こうした人体比例に関する研究も、1970年代は盛んでしたが、徐々に下火になり、現在ではかなり停滞しています。研究論文も、向川惣一やホイヘンス稿本では三好徹氏らの成果がわずかにある程度。
人体比例に関する研究書をもっと読んでみたいんですが、なかなかお目にかかれないのが現状です。
前置きが長くなりましたが、ここで話を戻します。
『イクシオン サーガ DT』第24話のイラストを見てみましょう。
円と四角形の中に、強化兵が描かれています。
これをレオナルドの「ウィトルウィウス的人体図」に重ねてみると……。
見事ぴったり!!
ということは、このイラストは「ウィトルウィウス的人体図」をもとに
かなり正確にイラストを起こしていたことになりますね。
さらに、『まどマギ』の脚本家、虚淵玄(うろぶち・げん)氏のアニメ
『翠星のガルガンティア』第1話にもこんなイラストが。
偶然とはいえ、出ましたねー!
こちらも「ウィトルウィウス的人体図」に重ねてみましょう。
すると……。見事にぴったり!! (笑)
こちらもかなり正確にトレースして描いているようです。
では、イラスト3点を比率を同じにしてみてみましょう。
こんな感じです。
……えっ、何でおまえはそんなこと詳しいのかって?
実は、別件で「ウィトルウィウス的人体図」をいろいろと調べてまして、
そうしたらパノフスキーとか、ホイヘンス稿本とか、いろいろ出てきたわけです。
そこへ、イクシオンサーガ、翠星のガルガンティアと
立て続けに「ウィトルウィウス的人体図」を元にしたイラストが登場。
これは私にとって、偶然とはいえ実にタイムリーでした (笑)。
というわけで、ブログのエントリーにしてしまえ、と思って
急いで書いてみた次第です。
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